角度ノート

駄文も積もればログ資産。かもね

くだん。

 

「あなたと話すのが楽しかった。」といって最後の客が帰った。

水曜が休みだったので、定期預金を解約した。これを使い果たすのはあっという間だと考えたら嫌気がさした。夜、セブンイレブンの肉系統のお弁当を買った。とても美味しかった。それで、店はもういいやと思った。
 
翌朝5時過ぎに目を覚まし、前日にネットで読んだ「流行らない店というイメージがついたら復活は難しい」という記事を思い出して、逃げ出そうと決めた。

私は構築するよりも撤収するときに力を発揮するようなので、日曜日には既に店は大変美しい居抜き店になった。未使用で未払いの食器類、什器備品、清掃用具、アルコール類など、自宅に持ち帰ってもしょうがないものは全部置いてきたので、お得感満載だ。驚くほどわずかな権利譲渡金と、家賃の違約分の清算を待って全て終了する。

そんなわけで木曜日が営業最終日だった。

店については、何の感慨もないので、書くことがない。
鍵を返却すると、出向くこともなくなり、思い出すこともない。足跡がかき消された雪野原のようだ。

閉店の連絡をした人たちからはいろいろとあったし、凄い速さで知れ渡っているのかもしれないし、いろんな聞き苦しい話なんかもされているのかもしれないけれど、関係ないと思うので、関係ない。
お祝いをくださった人にはうしろめたいけれども、それ以外は、札束で暖をとるようなことをしたからといって、誰に迷惑をかけたわけでもない。
 
自宅に持ち帰ったものの始末に少してこずった。冷蔵庫の食品なんかは、自宅の容量の少ない冷蔵庫におさまらず、やむなく廃棄するものも多数。ボール箱がうんざりするほどあったので、潰してまとめるとやっぱりうんざりした。
結局持ち帰ったものの一部分と自宅のあれこれを合わせて捨てることにした。
知人の便利屋さんは「本当にこれを捨てるの」などといったことは一切言わずに淡々と運び出すので、何か感傷的な気分に浸ることなどもない。
 
そういえば、11月のコートを探したら、春先に捨てたことを思い出して愕然とした。
 
あ、最後の客の話。
最後の日もお客さんが入りそうになかったので、手伝ってくれてる人に早上がりしてもらうことにした。すっかり身支度を終えると「今から客」と言って、最後のお客さんになってくれた。彼なりの気遣いだったと思う。閉店時間を過ぎても飲んでいて、帰り際にそんなセリフを決めるので、ちょっとめんどくさかった。