角度ノート

駄文も積もればログ資産。かもね

さかなの夢。

 

ずうっと好きだった人の名前がちひろさんといって、もちろん男性だけれど、それで同名のコミックを知らされたときは、思い出したという意味でごく僅かに動揺した。
 
つきあったというほどのつきあいというのがどれほどのものかはしらないけれど、なかなか強烈で過激で意思強固な人で、自分は絶対に結婚しないし、ましてや子供は持ちたくないと常々話していて、なぜそう考えるのかの背景も少し分かっていた。
 
その彼が結婚したのを偶然知った。知ったのだけれど、ああそうかとしか思えなくて歳月は実にそういうものなのだと実感する。
私だって回りに言いふらしたことと全く違うことをやらかしたり、白いコートを買いにいって黒いコートを買ってくるなんていうのはざらなので、何年も経つうちに人は変化するのだから別にそんなことはどうでも良くて、むしろテキスト中にあった商品の方にそそられた。

「炉ばた大将」って。
 
魚を焼きたい。しかし、ガスコンロは不甲斐ない。規制のせいで、グリルで焼いても、焼けきらないうちに火が消えることがあるし、網焼きでは点火状態が続かない。フライパンで焼くのはあれは焼き魚ではない。焼き魚の美味しさは下火で焼いて、滴る油を焦がしてこそ、煙でいぶされてこそなのだ。
 
小樽の市場で買った八角を一夜干しにしたときは店で焼いて試食したけれど本当に美味しかった。店は業務用の火力の強いコンロだから、両脇に耐火煉瓦を置き、その上に網をのせて強火で炙ると、備長炭とは言わないまでも十分に美味しい焼き魚ができた。店で実現できて家でできないのはそこだけだ。鮮度の良い魚はあちこちにある、たいていは海にいる。調理手段に制限があってせっかくの美味しさを逃してしまうのは随分悔しい。
 
それでカセットコンロとか七輪とかをアマゾンで探し、炉ばた大将を知ってはいたけれど、やはりなかなか良いものらしいことが分かったので、ほしいものリストに入れた。それだけで十分だ。部屋で焼いたら壁も煤けていくだろうし、ベランダで焼いたら近隣にご迷惑がかかるかもしれない。
 
 
私は、生の魚つまり刺身よりも焼いた方が美味しいと思っている。安心も味覚のうちだ。
どろぼうねこになるのが夢だったのも、ずいぶん昔の話。