角度ノート

駄文も積もればログ資産。かもね

扇風機なしに終わった夏。

 

同僚におすすめした手前、「楽園のカンヴァス」を再読した。
ラストに感動したと言ったのだが、話のラストのロマンス模様はどうでもよくてただ、コレクターの情熱に動揺するほど感動したので、もしかしたら同僚と感想が食い違っているかもしれないけれど、まあどうでもいいや。

寝付けなくて今までに行った美術館やら好きな絵画やらの記憶を手繰っていたらますます眠れなくなった。
私は旅の思い出とかをほとんど記録に残さないし、美術館でも気が向いたら好きな絵葉書を購入する程度の経済効果に貢献しないタイプの人間だ。旅の写真を撮ったりというのも初めのうちだけで、気が付いたら鯉の写真ばかりになったりする。以来覚えていることだけが唯一の旅の記録となった。

数枚の絵葉書の中にハンマースホイがある。ハマスホイなのかもしれない。ハマスホイの絵は静かで気持ちが良くなる。
布団の中で、ひとはひとの正面ではなくて後ろ姿をより多く見つめているのではないかと思いついた。
ひとを好きになるときは横顔からだという話もきいたことがある。横顔から後ろ姿にじわりと回転して愛情は深まるのかもしれない。

そういえば人の書いた小さな文章の中に配偶者の後ろ姿が結婚当時よりもふくよかになっているというようなくだりがあったのを、そんなことを私ははっきりと覚えている。いつもより優しい文章に感じた。
私も後ろ姿を磨く必要があったと考えたけれど、私があなたの後ろ姿を見ることはないし、私の後ろ姿をみることもあなたにはない。世界はそんな感じで夜中の私を覚醒するんだ。棘で痛いかのように寝返りをうつ。

いちども扇風機を使わずに終わった夏だった。