角度ノート

駄文も積もればログ資産。かもね

青肉。

 

ごめん、また夢の話から始める。
明け方、大切なひとの夢を見た。私の隣に誰かがいて、その人に用があるらしい風で、背広姿が現れた。私はメロンを半分持っていて、なんて言おうか随分迷って、半分食べていただけますかと声を掛けた。
そのひとは間髪を容れず、みたいな勢いで、私を一顧だにせず、もちろんメロンのことも見ないで、あっちに行けというように、こばえを払うように、手をうるさそうに一振りして拒絶した。
おそらくメロンが嫌いというよりは私を嫌いというのが誰の目にも明らかであるような素振りで。そこでどんより目を覚ました、いやな日曜日だ。

胸の芯をわしづかみにされたみたいで、ココナツとかナツメグとかをゆさゆさ揺すった時のように気持ちがバラバラおちてきて怪我をしそうなくらいバラバラおちてくる。ナツメグをゆさゆさしたこと、ないけど。
そういえば、唐辛子を使う時いつも思うけれど、唐辛子は美しいいれものだ。辛さのいれものだ。半分に折ると中からぱらぱら大切なものがこぼれおちてくるのだ。宝物と宝物入れのようだと考えているのに、いつもそのときはジュエリじゃなくて、トラジェディが頭に浮かんでしまう。
 
気をとりなおして、白鶏をつくる。これに雲白肉のたれをかけようと思うんだ。とてもすてきな甜醤油を使ったたれを。それから出汁をひいたり、烏賊を蒸したり胡麻豆腐をつくったりして、そ、こばえの如く台所でちまちま動いてたら、気が晴れた。
 
外も晴れたので、網戸は好きではないから、ただ開放する。ごくたまに大きなハエか何かが入ってきてぶんぶんいうけど、放っておくとこっちから入って、そっちから出ていく。
空が青い青い青いと青ばっかり見てると青ばっかりに見惚れるのはいかがかとばかりに夏の雲がむくむくする。わあ全部好きだと風に吹かれてみるんだけど、私は空のことだって風のことだって何も知らないのに、こんなに好きだと思うんだから、私がひとのことを良く分からないけど全部好きだと思う事のどこがいけないんだかさっぱり分からない。空や風を眺めているまに8月の日は案外早く暮れてしまう。
 
 
実習先の店長が、卒業したらどうすんのと聞くので、何も決めていないけれど、とりあえず旅行すると言ったら、貧乏な店なので雇ってあげることはできないけれど、つきいちでスペシャル飲み会があるから、手伝いに来ないかと言われて、是非にと、返事をしておいた。普段と違う食材を使うから仕込みも面白いと思うけれど結局ただ働きだ。
「卒業したらどうすんの」フレーズはクラスでも飛び交っていて、私が旅行に行くというとげらげら笑う。おかしいかなあ。どこにいても、月や太陽が見えるみたいに私はメロンのことを考えてる。
 
 
えーと、メロンは青肉でしたよ。種が少し多かったけど、とてもジューシーでしたよ。