角度ノート

駄文も積もればログ資産。かもね

残暑残照。


学校では、じゃがいもを30分から40分くらい茹でて、という一連の説明が終わったあとで必ず「じゃがいもの茹で時間は何分ですか」と質問する人間が出現する。少量の塩とオリーブオイルを入れるときの「塩の分量は何グラムですか、オリーブオイルは何ccですか」とかも。後者はやれやれと思うけれど、前者はかなりナンセンスだ。
話をちゃんと聞いてないうえに、じゃがいもを「茹でる」という行為は、ゆだるまでゆでるしかないのだと思う。
 
あまり関係はないのだけれど、ピアノの話を思い出した。
私はピアノを弾けないが、独りでピアノを覚えてしまった男の子に聞いたことがある。どうしたら弾けるようになるのかと。彼は、いとも簡単に「弾けるようになるまで練習する」と真顔で言った。
 
さしすせそ、の後に味醂がくると先生はおっしゃった。
なぜ塩や醤油より砂糖が先なのかというと、素材面のオウトツに調味料分子が入り込んだり付着する時に、先に小さい分子がついてしまうと、あとから大きい分子が入り込めない、要するに味がのらない、だから分子の大きな砂糖を先に、というお話しだった。
 
そこでまた私は、壷に石を入れる話を思い出してしまう。
 
学校は後期に入る。夏休みを前後して欠席者の数も増えた。
間抜けな質問をしようと調味料の順番を間違えようとなんだろうと、通ってこれるうちはいい。
お盆過ぎに夏が済んだかと思ったのは一日きりで、翌日から、実は今でも暑いのだけれど、今夏のそんな特別な暑さもあってか、昼間、飲食店舗でアルバイトをしている人たちが何人か、身体を壊して学校を休んだりしている。休学した人もいる。9月までもてば最後まで続くという夜間学生のジンクスがあると聞いた。
 
自分に関して言えば前期はカリキュラムの都合で木曜日は休みだったけれど、後期には科目も増えて月から金までびっしりになる。将来のシェフでもなければパティシェでもないのだから、未来を嘱望されることなく淡々と包丁をとぐ。おそらく私は好奇心だけで通っている。
 
自分の一番先に入れたい石は、入らない石だと書いたことがある。それ以外を入れたくはないのだから私の壷は空だ。いまだ空のままだ。
 
そればかりか、自分が誰にとっても大きな石でも砂粒でもなかったのだとぼんやり思う。
 
苦みをともなった。