角度ノート

駄文も積もればログ資産。かもね

iさん見習い。


肝硬変歴があって、しかる後の肝臓癌発現があるからといって、肝臓部長と呼んだりするのは酷いということに気付いたのでiさんと書いておく。役職を呼び合うような会社ではないし。
 
彼はクリエイティブで、企画書も書くけれど、映像が一番の得意だ。オンエアしたコマーシャルは数知れず。
私は「(笑)」のついたプランナーなので、とりいそぎiさんに弟子入りしてみた。来社なさるお客さまにはi見習いだと言っている。
 
地方の大手広告代理店をもう10年以上も前に辞めて独立していたんだけど、肝硬変でややしばらく入院したりして、独り事務所はそんなとき、もうどうにも立ち行かなくなってしまうから、今回は複数名の会社となった。
なにしろ自覚症状がないものだから、実は余命宣告が家族になされていることを本人は知らない。毎日出社するなんて、どうかしてる、というくらいの実状のようだが、回りの誰もが積極的な休養をすすめないのは、本人がとても楽しそうにしているからだ。
事務所の内装も机もイスも壁紙も全部、自分の好きなようにした。おまけに私が、i見習いになったものだから、なんだかとても嬉しそうにしていて、本を買ってくれた。正確にいうと、本を買って、貸してくれた。私はおおまかな人間なので、ざらっと読んで返却した。
 
私は仕事ができないので、机の上はいつも乱雑だ。机の上が汚い人は仕事ができないと書いてあったからきっとそうだと思う。休み明けの朝、机の上に、ロフトで買った小さなボール紙製の、引き出しのついた小物入れが置かれていて、机の上に置きっぱなしだったいろいろがきちんとしまわれていた。きっと弟子のだらしなさを見かねたに違いない。
どうせなら、もっと大きいのがいいと思ったけど。
 
私がi見習いになるなんて、彼も私も誰だって、そんなことを思いつきもしなかった。
 
でも、呼ばれたんだ、私。引き寄せられたような気がする。
 
しゃちょーも全事情を知っていて、決めた。

iさんは来週、逃れられない検査があって、おそらくそのまま入院することになる。
私は逃げだしたりしない。
 
私は無報酬のままでいて、何がしか仕事をしたので、請求しなさいとしゃちょーは言うけど、私は、なにもできない新人サラリーマンが給料を得るのは変だと書いた。だったら自分だってそうだ。見習いというのは一人前になってはじめて自分の仕事を買ってもらえるのだと思う。だから、無報酬のままでいる。きっと談志ならそういうんじゃないかなと考えた。
 
もしかしたら私がiさんたちと一緒にいるのは、ある種の人々には、羨むべき立ち位置なのかもしれないけど、ここで仕事をしていられるのは、それは、それが私だからだ。

私は特に熱く燃えたりもせず、何か嫌なことがあれば、会社へは行かないという信念のもと、毎日通っている。
そして、多分私はこれから辛い目に合う。そう遠くない日に。
それを乗り越えるために引き寄せられたんだと私は思う。
 
 
今日、新会社として初めてのプレゼンを行い、何とか初の仕事になりそうだ。
関連業務に精通しているので依頼したい人間は、今、前立腺関係で入院中なのだそうだ。

 
学校は多分辞めない。今やっている包丁研ぎも、鍋振りも、立ちっぱなしの作業なんかも、きっと私が乗り越えるときの支えになる。