角度ノート

駄文も積もればログ資産。かもね

りんご

 

私の事務所では、繁忙時にアルバイト君を頼りにし、1号君から5号君までいた。全員が揃うことは滅多になく、シフトを組んだり、適当にバイト君同士で連絡をとりつつ突発的な作業をこなしてくれたものだ。

バイト2号君が、バイト2号君になったのは大学に入ってからだけれど、中学生の頃から2号君を知っている。
バイト1号君は、しばしば2号君の家に遊びに行き、遊び呆けて戻ってくれば、2号君のおかあさんはスカートをはいているだの、2号君のおかあさんは髪が長いだの、またあるときは2号君のおかあさんは、茹でとうもろこしにフォークを刺してだしてくれたんだと興奮して語った。


その2号君が1号君の家に遊びにやってきた。1号君の家は、母不在が常態であり、ばあちゃんしかいなかった。

ばあちゃんは、もちろん気の利いたお宅ではどうするのかを知ってはいるけど、面倒くさい気持もあったんだろうし、何よりも遊び心が強く、きれいに洗ったりんごをポンと二つに切って二人に出したそうだ。バイト2号君がどんな顔をするか見たかったんだと、あとでばあちゃんが言っていた。

2号君は、本当に戸惑った様子で「これ、どうすんの、どうやって食べるの?」と1号君に聞いたらしい。
1号君は、にやにやしながら、ふつーにかじる、とか何とか答えたようだ。

バイト2号君が初めてりんごをまるかじりすることを覚えた日だ。
うふふとか、ふふとか笑いながら子供たちは、りんごを食べたんだって。秋の一日に。


その2号君が農業関係の学部を卒業し、陸自に入り、遥か遠くの地域に行った。
所属は研究関連の部門だそうだ。研究といえども、まずは皆と一緒にトレーニングというかどうか知らないけれど、体力を使うことをするそうで、なかなか厳しいらしいと伝えきいた。

2号君が今どこにいるかは知らないが、りんご以上の思いを噛みしめているのだと思う。