角度ノート

駄文も積もればログ資産。かもね

飛ぶ水色。

 

婚姻届は出したものの、諸事情により未だ職場の近くでひとり住まいをしていた息子が、漸く新居に引っ越しをするというので、立ち合いのためにかりだされた。ガス会社の人が早くきてくれたので、一時間足らずで私は放免されてしまい、北大構内を散歩しながら帰宅する。
  
ひさびさに穏やかで暖かく、大野池でぼんやりした。昨年ここに来たときはまだ春の浅い時で、風も冷たければ、とても悲しい日だった。
 
水色の鎖線が空中を平行移動するような飛び方をするあれはエゾイトトンボというものらしい。線分が2本になったとき、なんだか鼻の奥がツンとするような気がした。空飛ぶ水色の線なのだ。
池の中ほどにあるスプリンクラーは蓮の葉を濡らしていたし、それに今はポプラの綿毛がアニメの雪のようにゆっくりと柔らかに舞い落ちる。
 
  
明日は仕事なのかと息子が聞くので、話すつもりはなかったのだけれど、全部辞めたと言った。小一時間で引っ越し荷物の積み込みが終わって私だけが解散になったせいかもしれない。私は新居まではついていかない。それは余計なおせっかいというものだ。
 
少し呆れられたので「飽きた」と言ったらますます呆れられたようだ。本当の気持ちを伝える努力のようなものを私は多分したことがないので、自分の本音がいつもわからない。第一、本当の気持ちを伝える必要があるのかどうかも分からないし、こどもくらい親の気持ちに関心のない存在もないのではないか。
 
とりあえず、早朝に起きて仕事に行く、というのがなくなって身体は楽になった。もちろん就活は期間を開けずに再開する。実際のところ、近場の店舗は完全に辞めたけれど、三年目を迎えた店舗の方は店長が休職扱いにするというので、いろいろが済んだら改めて連絡しなきゃならないのも面倒な話だと私は考えている。
私は、私が思う私ではなくて、息子が思う我儘で冷淡でだらしない私の方が本当の私なんだろうと思う。息子は母としての私を恥じているんじゃないかと思った。かつて、さんざん働いた私を。