角度ノート

駄文も積もればログ資産。かもね

長い昼休みに。

 

「どな」というのは、土鍋につけた名前だ。もちろん呼んだりはしないけれど。
電気炊飯器オール、すなわち拙宅に2つあった炊飯器の両方とも、という意味だ が、それがほぼ同時に壊れてしまい、新規購入する気はさらさらなくて、その辺にころがっていた土鍋で炊飯をすることにしてから、もう数か月経つ。

「どなごはん」は電気炊飯器に比べて短時間で済む上に美味しい。食べ過ぎるくらいに美味しい。


かたや、賞味期限をやや少し過ぎた茎茶があって、緑色が白っぽい褐色になるくらいまで空炒りすると、部屋中にお茶の香気が広がった。お茶嫌いでもなけれ ば、ちょっとした来客時なんかには幸福感が広がると思う。自分は地下商店街とかでも、お茶の香るあたりに、すうっと引き寄せられるので、気に入ってしばしば試している。来客はない。

「どなごはん」を済ますと、炒ったお茶は指でつまめるくらいの温度になっていて、「できたてほうじ茶」を淹れる。煎茶も好きだが焙じ茶も美味しい。

家の開口部を開け放つと、お茶の香りはベランダから出て行ってブラインドの羽根がさやさやとゆれた。

 

夢には「諦め時」が、文章には「まとめ時」があるそうだが、しかし私は諦めもしなければ、文章をまとめもできず、だらしなく散逸放題をする。

さて。

「私は明日の晩、パリに着く。風呂には入るな」

お昼休みに、偶然見つけた一文だが、こんなに直截的に響く言葉もないと思った。 
これだけじゃ分かりにくいので補足をしとくと、遠くに行ったナポレオンが夫人に宛てたという。


それで、お昼休みのご飯屋さんの隅っこのテーブルの前には、幅の狭い窓があって、窓の中には銀杏の木が一本入っていて、夏の黄色い日差しと風に揺れたから、あなたはどんな窓辺がお好きなんだろうと考えて、それからやっぱり私はあなたの言葉や文章があなた自身だと考えるから、 言葉ならば、こんなことをこんな具合に書きそうだ、という想像はできて、想像するときはあなたのにおいはどんなだろうと考えることにつながるし、特に今日みたいな日は、考えるたびに私が熱感や汗のしめりけを帯びるからといって、私にできるのは、過去に体験したアイスクリームのにおいや、香水のにおいがどんな風だったかを表現できるだけなのであって、知らないにおいを想像することはできない。