耳なし芳一の話と言うのは、どなたも知っているのではないかと思う。伝承作品であるとはいえ、小泉八雲の功績は大きいし、民俗学者としても、もっと評価されてもいいような気がする。
小じんまりとした記念館では、モニターでKWAIDANの映画なのか舞台なのか、耳なし芳一を流していて、胸が詰まるような映像を見た。
こどもの時に、多分学習雑誌の付録か何かで知ったと思うけれど、「こわい話」としてしか認識していなかったものが、哀しみの輪郭があるのを理解した。
KWAIDANにまつわる展示物も興味深く、日本を書いた著作を落ち着いて読みたいと思っている。
この小泉八雲記念館の隣に旧居があり、窓ガラスがぺらぺらになるくらいに磨きこまれていて、むしろガラスを通して見た方が良いような気がして、ガラス越しに庭を撮る。
2月に横山大観記念館に行き、庭を眺めたのだけれど、無礼を承知で書けば、その時は、なんとなくいまいましい気がした。今思うと、空腹だったせいに違いない。
旧居の隣に田部美術館があって、楽しみにしていたにも関わらず休館日に当たるという凡ミスを犯した。
塩見縄手と呼ばれる県道37号のこの辺りは、道路の片側に武家屋敷が当時の様子のままに立ち並び、反対側は松江城の外堀となっている。自動車の往来があるのが可笑しく感じられる。
特に興味があるというわけではなかったが、せっかくなので、松江城の中に入り、上までのぼり、鎧兜や刀剣・槍などの展示を見てしまい、そのせいで余計にさきほどのビデオでみた武者の亡霊が痛ましく感じたのかもしれない。尤も時代考証的には全く異なっているのだろうけれど。
堀を行く遊覧船のあとを鳥がとぶ。
ずいぶん大きくて、すんなりとした鳥がいて、唐突に白い翼を広げて、お堀を横切って飛んだ。
お城の隣、というと雑駁な言い方だが、隣に島根県庁があって、県庁前のバス停でバス待ちしながら眺めていると、水面下のそこここで湯たんぽくらいの大きさの亀が泳いでいる。
赤いバスがやってくる。松江は美しいまちだ。
松江には、昨年の12月にも訪れたが、その時は鳥取市起点であったせいもあり、宍道湖脇の県立美術館に行っただけで、市内は赤いバスで一周したっきり。
赤いバスはみどころをめぐる周遊バスで、オルゴールの木箱のようで楽しい。
一日切符を買って、乗ったり降りたりを繰り返す。
まるで穴場のような、宍道湖をすっかり見渡す温泉につかる。どこに行っても私はお湯につかる気満々だ。熱目のお湯が心地良く、昼下がりの湖面が光る。
バタ電の松江しんじ湖温泉駅の前で再び赤いバスを待ち、松江駅に戻る。
松江駅からバタ電で、宿のある出雲に戻る。
あたりは柿の木だらけだ。
民家の庭先に、たわわであったり、鳥のための一つ二つであったり、軒先の吊るし柿であったりした。
母は、もなかが好物なので、一力堂のもなかを購入した。
これは大変に大変においしうございました。