角度ノート

駄文も積もればログ資産。かもね

余計に回す。

 

どうやら北海道を出ることを脱北と言うらしいことが分かった。
もひとつ。北海道では、イカはスイーツだそうだ。
さて、何度も脱北を繰り返し、演芸場に昼間から入っては暇人ばかりだと高座の向こうから揶揄されていた。

行くたびに出くわしてしまう講釈師なんかもいて、随分話を噛む人だと思っていたら、2度目も同じだったので、練習をしていないんだと思った。講談はもっと面白くていいはずなんだけど。

奇術や紙切り、なんとか社中といった日傘の上で丸や四角を回したりする、いわゆる色物の人たちは噺の合間をつなぐ賑やかしだ。

それほど華やかでもない本番の数十分の陰に、さらに地味で濃密な時間がどれほどあったかとおもうと姿勢を正して見なきゃいけない気持になる。それぞれが、陰できっと血の出るようなご苦労をなさっているはずだ。

一升枡や土瓶が傘の上をくるくる回るのを見ながら考えた。
サラリーマンだけが、電話ひとつとれない、挨拶ひとつできないで、要するに何者でもないままにサラリーマンとして社会の表舞台に登場し、何もできないくせに給料をいただいてしまう。給料ばかりか有給も賞与もいただいてしまう。当たり前の権利だと言う。

どんな零細な個人事業主だって、何かしら自分にできる技能や技術があることを信じて独立起業をするから、何も下地がないのにいきなり今日から社長でござい、とはならない。

サラリーマンだけが、半人前で表にでてきて、いっぱしの顔をするのは、どういうわけなんだろと思う。数を頼みに横紙を破っている恥知らずとしか思えない。


マジックの人は、やはり、というと何だけれど、浅い時間帯のご出演は、それなりにつまらなかった。
演芸場を出て、まだ明るい上野公園を歩いていると、向こうからやってきた人とすれ違いざまに目があった。さきほどのマジックの女性だった。

客席はまばらだったから、先方は私を見憶えてでもいたのかもしれない。私のほうは、カジュアルな私服に舞台用のきちんとしたヘアスタイルという小さな違和感に、目礼をためらった。明るいうちに今日一日の仕事が終わったのかもしれないと思うと、知らん顔を決めた。