角度ノート

駄文も積もればログ資産。かもね

たくさん希望

 

いつどんなことがあるか分からないし、景気は悪くなる一方だから今年は水を飲んでやり過ごす。と知人が言う。
だから行けるうちに行くと言って独りで鮨屋に出かけたので、これはそろそろだと思っていると、案の定「僕は離婚する」と翌朝、報告された。
 
特に返す言葉がないので「そですか」と返事をすると、自分がマンションを出るので部屋を探すんだと言う。
堰を切ったように語るのを、タイピングゲームをしながら生返事で聞いていた。
部屋の下見に付き合ってくれと言うので、嫌だと答えると、190センチ近い体躯を縮めるように出て行って6.8畳一間を契約してきたという。6畳8畳ではなく 6.8畳を。
景況悪化に加えて、マンションのローンもあれば、養育費もあるので、やっぱり鮨は食べられるときに食べておくに限ると思ったらしい。
 
右手は左手よりも利き手な分、働くんだから左手よりもつらいんだと言い、左手はシフトキーもコントロールキーも左手が叩くんだから左手の傷が重要で困るの だと言い、左足は小指の先をドアに挟んだ痛みに比べれば、手なんか何だと言い、右膝はきしむと言い、腰は腰痛こそが痛みの最たるものであるといい、首は回 らず肩は上がらず、胃は肺をそしり、肘は膝を憎み、夢は枯野を、枯野をどうするんだったっけ、枯野を。かれのはどうだったっけ。とうに忘れた。
 
右手と左手とどっちが痛いか、どれが一番の痛みであるか、だれが悲しみ王であるか。
誰が一番言葉に詰まったクイーンであるか、どれだけ長いこと言葉を失った王子であるか。
 
満身創痍だけが事実なのだ。