春の連休のはじめのころ、ベランダのプランターに朝顔を植える。
20年近くそうしてきた。
ほとんどの年は良く咲くが、全く咲けない年もたまにある。
朝顔のことを考えないと、朝顔は咲かない。
咲かなかったのは、母、入院の年だった。
退院してきたときに寂しがると思い、鉢花の朝顔を買って帰った。
当時は同居していたが、それぞれ単身生活を始めると
母と私はそれぞれの朝顔を育てて、
双葉が出たとか蔓が伸びたとかを話題にした。
私は、昨年から支柱ではなく、ロープを張って、
蔓がどんどん伸びて行けるようにしたので、
夏の終わりの朝顔は、空に近いところで咲いた。
小ぶりのさっぱりした青の花が好きだ。
今年の朝顔は、自分がうわの空で
なかなか蔓が伸びず、花芽がつくまで随分かかり、
鉢花を買うことも考えた。
それでもいくつかの花の後の秋、
そろそろ片付けようとロープを切ったりしたが
根をそのままにしておいたので
忘れた頃の寒い朝、乾燥した土の上で小さい青の花が咲いた。
翌日、根から抜いて捨てた。
ようやく青い花が咲いた日、
朝顔が咲いた、と人に言うと
何色が咲いた、と訊く。
朝顔の色を聞くなんて。
朝顔の色をたずねられなければ
こんなに深いところに私は落ちたりしなかった。