角度ノート

駄文も積もればログ資産。かもね

「着いちゃったね。」と言った。

 
5月のことだ。
 
羽田で乗り継いで鹿児島に向かう飛行機で、東京ばな奈の袋を持った女の子二人が近くに座って、鹿児島空港から市内の繁華である天文館に接続するバスでは、彼女たちは私の前に座った。季節には尚早かと思われる背中を出した格好の、十代と思しき金髪二人が、あまり言葉も交わさずに座っていた。やがて天文館でバスが停まると、「着いちゃったね。」とどっちかが言って、東京ばな奈の袋ごとバスを降りてった。
 
あの子たちは、あの日の夜に、東京ばな奈を咥えて、少し泣いて、ちょっと喉に詰まらせたかもしれない。
 
旅はどうして、着くんだろう。どうして家に帰るんだろう。あの子たちは分かっただろうか。
私はあまりよく分からない。
 
私は、旅をしない人間だった。
仕事柄休みがとれなかったこともせいもあるけれど、枕が変わると眠れないたちだったし、第一、乗り物が嫌いだった。
 
2007年まではそうだったのだが、2008年に普通免許を取得して、2009年に車を購入して、振動の意味を私が理解してからだ、乗り物が平気になったのは。

飛行機が好きだ。フェリーであちこちする勇気はまだない。

わたしはかつてバタフライを泳いだが、あれは水中をキックで進んで、水上に突出するときの気持ちが爽快なんだけれど、その時に、離陸が似ていると思った。
だから、いつも離陸の時にはバタフライを思い出す。きっとその角度はあの角度なんだろうと思う。
 
旅は、どうして家に着くんだろう。
戻らなかったら、旅ではないからなんだろうか。だったら、人生を旅とは言わない。
 
私は鹿児島で1泊して奄美に向かったが、それは絵を見るためだけだったし、別に旅行記を書くつもりはないのだけれど、奄美でアイスクリームを唐突に食したくなったが、アイスクリーム屋は休みであった。ラムソフト、ラム酒のソフトクリームがあっても良いではないか、名物になってもいいのではないか、唯一の国産ラム酒を製造しているのだが、ラムソフトはない。つまりそういう土地なのだった。
 
 
これは10月の話だけれど、羽田から千歳に降り立つと、前にいた女性が「ああ呼吸が楽、深呼吸ができる」と言った。瞬時に同意した。
 
そのための旅なのか。